『ボクはここにいる』

今どきどこのペットショップを覗いてもお目にかかることはない、ボクはバブルの落とし子
シベリアンハスキー、名前は「ポチ」。

当時はボクらのブルーアイが珍しくて、カッチョいい売られ方もしていたようだけど
ボクなんて掛け合わせて掛け合わせて今ではマッチロイお目々の末代犬さ。

ボクは生まれて3ヵ月目に、ここ8丁目のサトウさん家に貰われて来たんだ。
ここん家にはボクが来る前に雑種の白い小さな犬がいたんだって。
その子はまもなく死んじゃったらしくて、ボクはその後がまってところかな。

サトウさん家にはパパとママ、それから中学2年生と小学6年生のお兄ちゃん、小学4年生の女の子がいて、ボクが最初に連れてこられたときはそれはそれは大変な騒ぎだった。
特に一番上のお兄ちゃんのボクにかける愛情は並大抵のものじゃなかった。

今では恥ずかしい話だけど、ボクはその時オシッコもウンチも我慢できなかったんだ。
ママの「いやぁ~ん、ちょっと待って~!」の一声に、いつもお兄ちゃんが両手を添えて
飛んで来てくれた。
ママはその度に「いやあね、どうして手で受けられるの」って聞くんだ
お兄ちゃんは「大丈夫だよ、汚くないんだって」ってニコニコして答える。
ボクが食事のときはボクのドックフードをポリポリ美味しそうに食べるし
そしてママは「そんなものよく食べられるわね」って言う。
お兄ちゃんは「だってポチが美味しそうに食べてるんだもん」って
やっぱりニコニコして言うんだ。

その時お兄ちゃんは学校が面白くないってボクによく言ってたよ。
少しはにかみ屋のおとなしいおにいちゃんは、色々なことをボクに話して聞かせてくれた。
部活の野球部は朝がきついけれど大好きだということ。
ボクはママに連れられてネット裏から応援したこともある。
そんな大好きな野球だけど、副部長のお兄ちゃんは「人間関係が難しい」ってボクの頭を撫でながら時々ボクにこぼしていた。
ボクにはなんのことだかちっとも分からなかったけれど、「お前だけには素直に何でも話せるよ」って、やっぱりニコニコして言うんだ。

ボクが一番好きなのはやっぱりこのお兄ちゃん。
でも一番尊敬するのはパパ、次に恐いのは?ママ、ボクより小さいくせに散歩していて急に走り出すと蹴りが入る乱暴な花子ちゃんも好き。
そうしてボクが唯一ダチと呼べるのが二番目のお兄ちゃん。こいつには負けない。意地悪するとお耳噛んじゃうぞ!へへへ

ある日みんなで遊んでいるとき、パパが一枚の写真を見せてくれた。

「これがシロだよ」

そこには白くて小さな犬が、花子ちゃんと一緒に写っていた。
なんだかボクに似ている。

パパが言うには
女の子が女になったとき、この子は病院に連れて行かれたらしい。
一泊の入院で手術をして、退院のその日にみんなで迎えに行ったとき
病院の都合で手術日がずれて一緒に帰れなかったらしいんだ。
みんなはシロがあんまり悲しそうに泣くので、無理しても連れて帰ろうとしたけど
シロのお腹の手術跡が思ったより大きくて、用心のためにもう一日病院に預けることに
したんだ。

「大丈夫だよ、明日迎えに来るからね」
「あと一日辛抱するんだよ」
「頑張るんだよ」

いっぱいいっぱい声をかけて帰った次の日の朝、病院から電話が掛かってきた。

「シロが亡くなりました」

パパが言うには「寂しい、寂しいって泣くと死んじゃうんだよ」

ボクには「寂しい」ってことよく分からないけれど
なんかちょっと悲しかった。
そうして「お前にはそんな思いをさせないよ」ってみんな口々に言うんだ。

この話を聞いてから、もう何年経つんだろう。
今でも白くてちっちゃな「シロ」の写真はパパの仕事カバンの中に大事にしまってある。

そうしてボクは相変わらず「寂しい」ってどういうことなんだか分からないけれど
今日も8丁目のこの家に、みんなが「ポチ!ただいま!」って帰ってくるのを今か今かと待っているんだ。

あ、言い忘れたけど、ボクは今では立派なジャパニーズハスキーさ。
寒いのキライ!夜になるとお家に入れてもらい、おコタにもぐり込んじゃう。
そうしてみんな揃った中で眠るのがボクの一番の幸せなんだ。

そうして今夜もみんなと一緒に 「おやすみなさい」

                                        。。。。
                                    ポチ   ●

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2008年 10月 09日 | Friends and Pet is Famlly



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